こんにちは、たま企画室です。前回のブログに続き、今日も私の大好きな【石造美術】についてお話ししようと思います。
今回は【宝篋印塔(ほうきょういんとう)】という仏塔(石塔)を紹介します。
宝篋印塔という名前を耳にする機会は少ないかもしれませんが、前回のブログで紹介した五輪塔と同様に、鎌倉時代から作られているお墓や供養塔の一種です(五輪塔は平安時代末期のものも見受けられますが)。
今回紹介する宝篋印塔は、奈良県奈良市の奈良国立博物館にある【奈良国立博物館宝篋印塔】です。国立博物館といっても館内ではなく、「なら仏像館」と「新館」の間にある小さな池の中島に立っています。ある意味でセキュリティは抜群です。ただ、私としてはもう少し近づいて観察したいところですが……。
この宝篋印塔は、もともと個人邸の庭にあったものを昭和61年に博物館へ移建(いけん)したようです。
高さは現状で2m4.5cmありますが、相輪は別物とされているため、その高さには含まれていません。相輪まで揃っていれば、11尺(約3m33.3cm)の塔として造立されたものと考えられています。相輪があった当時の雄姿をぜひ見たかったですね。
まずは、宝篋印塔の形式についてお話しします。宝篋印塔は下から順に基礎(きそ)、塔身(とうしん)、屋根(やね)、相輪(そうりん)の4つの部材で構成されています。
私が思う宝篋印塔の見どころは、基礎に彫刻された意匠、塔身に彫刻された種子(しゅじ…仏や菩薩を象徴する一字の梵字[サンスクリット文字]を指し、仏や菩薩の本質やエッセンスを象徴的に表したもの)や像容(ぞうよう…仏像や宗教的な彫刻・絵画における形や姿、容姿を指します)。そして、屋根と相輪の形状です。
それでは、【奈良国立博物館宝篋印塔】の基礎の見どころから紹介していきましょう。まず、基礎の側面は素面(そめん)です。素面とは、特に彫刻や建築の分野で「表面に装飾や彫刻を施していない、平らで飾り気のない部分」を指します。
私の個人的な希望としては、基礎の側面に格狭間(こうざま…格狭間については後日、改めて紹介させていただこうと思います)という意匠が彫刻されているとかっこいいと思うのですが、残念ながら【奈良国立博物館宝篋印塔】は前述の通り素面です。しかし、この宝篋印塔には、格狭間以上に興奮する彫刻が施されています。さて、どの部分かお分かりでしょうか?
本来、宝篋印塔の基礎天端は2段の階段状になっていますが、この宝篋印塔の天端には、1段と反花座(かえりばなざ)が施されています。反花座とは、仏教の意匠における蓮華座の一種で、蓮の花びらが外側に反り返るような形状を指します。この形状は、蓮の花が完全に咲ききった姿や、散り始める直前の様子を象徴しています。宝篋印塔の天端に1段と反花座が施されている意匠は全国的に見ても非常に珍しく、いつ見ても見とれてしまいます。
次に塔身ですが、塔身の形状は見ての通り四角いだけで、サイコロのようなシンプルな印象です。ただ、この宝篋印塔には驚くほど美しい金剛界四仏の種子(しゅじ…種子は後日、改めて紹介させていただこうと思います)が彫刻されています。この種子は本当に見事で、はっきり言って、この彫刻を見るためだけに訪れる価値があるほどです。
次に屋根の見どころですが、四隅に配置された三角形のように尖った隅飾(すみかざり)が目を引きます。この隅飾は、『銭弘俶八万四千塔(せんこうしゅくはちまんよんせんとう)』に見られるデザインを踏襲しており、仏教的な意味が込められていて、独特のデザインが魅力的です。「何が良いの?」と思われるかもしれませんが、隅飾は1基1基すべて形状が少しずつ異なり、それが観察の楽しさにつながります。【奈良国立博物館宝篋印塔】の隅飾は、ほんの少し外に傾いていて、シュッとしたスリムでシャープな形状が特徴的です。私個人的には、とても好みのデザインです。
そして最後は相輪ですが、【奈良国立博物館宝篋印塔】の相輪は、前述の通り残念ながらオリジナルではありません。ただ、相輪もどの石塔でも少しずつ形状が異なり、それぞれ独特の魅力があります。観察しているととても興味深いので、別の石塔を紹介する際に改めて触れさせていただければと思います。
お読みいただきありがとうございます。宝篋印塔の教義(仏塔思想)については、また改めてお話しできればと思います。また、専門用語もいくつか登場しましたので、そちらについても後日詳しくお伝えしたいと考えています。質問やご意見がございましたら、どうぞお気軽にコメントやお問い合わせいただければ幸いです。今後とも、たま企画室をどうぞよろしくお願いいたします。
この記事では、私なりに理解した石造美術について書かせていただきました。もし内容に関して気になる点や誤りがございましたら、ぜひお気軽にお知らせいただけると幸いです。皆様からのご意見やフィードバックは、今後の改善にとても役立ちますので、どうぞよろしくお願いいたします。
銭弘俶八万四千塔 奈良国立博物館HP https://www.narahaku.go.jp/collection/p-961-0.html
参考文献 福澤邦夫著 「奈良県立国立博物館無銘石造宝篋印塔」『史跡と美術5594号』平成元年5月